少し前のニュースですが、大事な話なのでシェアします。「令和の米騒動」を受けて政府はお米の増産を稲作農家に「要請」する方針を決定したといいます。しかし、稲作農家は困惑しています。それどころか、各地で離農が進むなか、どう転んでも米の増産は不可能であるように見えます。
そもそも「減反政策(1971~2017年)」という政府のコントロールが始まって半世紀が経過しています。そして農家の平均年齢は統計上で69歳。ニュースのインタビューに答える現役農家の年齢は70代後半です。高価な農機具をローンで買い、自分の年金を投入して返済し、肥料や農薬を買う。出荷価格を安く抑えられたままなので、ほとんどの農家は赤字続きで、高齢により健康を害する人が続出。そんな状況で「増産しろ言われてもできない」のは当然です。
「なぜ年金で赤字分を埋めて、身体を壊してまで米をつくらなきゃいけないのか」
高齢農家の言葉に胸をえぐられる思いがします。
いままで田んぼをつぶして作付面積を減らし、減反の流れに適応してきた高齢農家に対して、「明日から田んぼを増やし、米を増産しろ」という考え方が、そもそも生産者の目線ではなく、ただ消費することしかできない純粋な消費者目線なのです。
私自身は野菜作りの研究と実践が中心ですから、米作りについて深く語ることはできません。しかし、野菜作りをとりまく環境は、米作りに負けず劣らず困難な状況だと認識しています。むしろ、今の野菜作りの難しさから推測したら、米作りも同様に悲惨を絵に描いたような状態に違いないと確信しているわけです。(畑作農家も減り、野菜作りは相当大変な状態なのです)
農業による食料生産は、ちょっとやそっとで軌道修正できるような分野ではありません。まして、中心的な担い手が70歳代より高齢であるということは、いま見える未来は「日本の農業の壊滅」しかありません。ですから、もし多くの消費者が「安心安全で美味しい食べ物」を望むならば、意識を完全に切り替えて、生産現場に自ら入っていくか、生産者と強い結びつきを求めていくか、どちらかの道しかないでしょう。
いまの社会には、まだ「お金がいっぱいあるから食べ物は買えば良い」と考えている人が多いと思われます。しかし、安心安全で美味しい食べ物を作っている生産者の立場になって考えてみればわかります。自分の作った作物を売るよりも、その作物で「心ある他の生産者が育てた安心安全で美味しい食べ物」と交換したい。そう考えるはずです。
いまはまだ、本物の食べ物をお金で買うことができます。これまでの名残で、ごく一部の食べ物が従来の流通に乗っているからです。しかしこれからは、どんなにお金を出しても、本物の食べ物は手に入らなくなる時代になります。なぜなら、本物の食べ物を作れる人がそもそも極少数であり、作れる量もごく少量だからです。丹精込めて育てた農作物は、家族と大事な友人にしか回せなくなる、ということです。すでに、その流れが起き始めています。
コメント