野菜を自分で育てる。だれもが一度は憧れる趣味かもしれません。けれども、決して難しくはなく、きょうから、だれでにでも始めることができます。家の近くの貸農園で。ベランダのプランターで。
<肥料も農薬も使わない理由>
とても大切なポイントは、「肥料も農薬も一切使わない」ということです。書店で野菜づくりの教本を買うと、肥料とはどんなものか、そして肥料をどのように使うのかが詳しく説明されています。育てている途中は病気になったり虫に食われたり被害が出てくるので、症状に適した農薬を使うことまで指導されます。
けれども、野菜は肥料がなくても育ちます。さらに健康であれば農薬は不要です。私たち人間に置き換えて考えてみましょう。調子の良いときに薬を飲む人はいません。身体が弱って病気になったときに薬を使うものです。つまり、野菜を健康に育てれば良いだけなのです。
<ホームセンターで黒土を買う>
近所のホームセンターに行くと、肥料が入っていない「黒土(くろつち)」が売られているので、それを購入して、プランターや鉢植えに入れましょう。貸農園や市民農園を借りる場合は、そのまま畑の土を使うしかありませんが、肥料と農薬は一切使う必要ありません。この地球は、肥料や農薬を使わなくても、健康で美味しい野菜が育つように創られています。そのことを信じて、まずは「土に触れる」ことを考えて始めてみましょう。
<好きな野菜の種を播く>
春や秋なら小松菜やレタス、夏ならトマトやナス、スイカの種まきをしましょう。苗を買ってきてもOKです。種類は問いません。そして畑なら基本的に水やりは不要です。プランターや鉢植えなら、気候に応じて適度に土が湿るぐらいの水をあげます。野菜の芽が出てこない可能性もあります。そのときは、見知らぬ雑草が発芽するかもしれません。また、たとえ野菜の芽が出てきても、大きく育たないかもしれません。
★野菜の健康は「土」から始まる
初めのうちは、野菜が育たなくても、がっかりすることなく、じっくり観察しましょう。ここで大切なことは、野菜か雑草かは別にして、種から芽が出てくるという生き物の力や営みを肌で感じることです。肥料など何も加えずに、植物は発芽し、大きく育っていく。そのことに感動できる心を育てていきましょう。
<マニュアルに頼らず自然を観察する>
日本も世界も、農業と言えば「肥料や遺伝子組み換え技術を使って、とにかく大量に食べ物をつくる」ことが当然だと考えられています。現代農業では、どんな野菜を育てるにもマニュアルがあり、いつ、どんな気温の時に、どのように種まきし、いつ農薬を使い、どの大きさに育ったら収穫するか──すべて決められています。けれども、現実の自然界は、マニュアル通りには動きません。そのために、農薬はより強い殺菌力、殺虫力、除草力を持つよう改良されています。
一方、肥料も農薬も使わない私たちの農業は、時間をかけて自然をよく観察し、直感にしたがって種を播きます。野菜の種は数日で発芽し、すくすく育ってくれます。たとえば私はスイカ栽培が得意です。市販されている一般的なスイカ栽培では、7種類の農薬を4回使うよう指導されているそうです。つまり一作で合計28回も農薬を散布します。少しでも病気や虫食いが出ると、あっという間に全滅するからです。しかし、私は一切使いません。そして、5㎏から10㎏ぐらいの大玉スイカがごろごろ育ちます。
★発芽しない、育たないときの心構え
ただし、初めからこのように育ってくれたわけではありません。思うように育たない状態を繰り返し、野菜や雑草はどのように育つのかをひたすら観察してきました。畑には微生物やさまざまな虫、ネズミやモグラ、カエルやトカゲ、ヘビもたくさんいます。実はこうしたすべての生き物たちが、スイカを育てるために協力してくれていることを発見しました。それ以来、スイカは何の問題もなくすくすく育ってくれるようになったのです。
★スイカづくりで学んだ力
このことは、マニュアル化できません。何年も観察を続けたことで、すべての生き物の息遣いというか、いわゆる「生態系の仕組みと力」が肌感覚で理解できるようになりました。そこまで行くと、スイカに限らず、どんな野菜でも育ってくれるようになるのです。
<自然とつながる感覚を育てる>
野菜づくりの極意は、「野菜をつくろうと思わないこと」。矛盾するように聞こえると思いますが、「野菜をつくろう」と気負ってしまうと、野菜や周辺の微生物、昆虫たちに緊張が伝わってしまいます。そもそも野菜は周りの生き物たちと協力しながら、自ら大きく、強く育つ力を持っています。成長する力を信じ、優しく見守るのが人間の役割だと心得ましょう。これは、従来の農業技術の常識とはかけ離れているかもしれません。しかし、完全な無肥料・無農薬で野菜を育てるためには、地球や自然とつながっている感覚が必要不可欠です。
決して野菜を早く育てようと焦る必要はありません。リラックスして、土に触れることを楽しみ、野菜や雑草が発芽して、すくすく育つ様子を楽しんでみてください。ある瞬間、「ああ、どんな野菜も育ってくれるに違いない」という確信が生まれるでしょう。その日を心待ちにしていてください。
関連サイト:
農業技術研究所 歩屋
オンライン講座:
Halu農法入門講座

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